外国株式の投資信託を選ぶとき、「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」の2種類があることに気づいた方も多いでしょう。
この違いを理解していないと、思わぬ損失を被ることがあります。この記事では、為替ヘッジの仕組みとどちらを選ぶべきかを解説します。
為替ヘッジとは
為替ヘッジとは、為替変動の影響を抑える仕組みです。
外国株式に投資する場合、株価の変動だけでなく為替レートの変動も損益に影響します。
| 為替 | 株価 | 為替ヘッジなし | 為替ヘッジあり |
|---|---|---|---|
| 円安 | 上昇 | 大きくプラス | プラス |
| 円安 | 下落 | 為替でカバー | マイナス |
| 円高 | 上昇 | 為替で相殺 | プラス |
| 円高 | 下落 | 大きくマイナス | マイナス |
為替ヘッジなしの仕組み
「為替ヘッジなし」は、為替変動をそのまま受け入れるタイプです。
具体例
100万円を米国株ファンド(ヘッジなし)に投資した場合。
| 状況 | 1ドル=100円で投資 → 1ドル=120円に円安 |
|---|---|
| 投資額 | 100万円(10,000ドル) |
| 米国株リターン | +10%(11,000ドル) |
| 円換算 | 11,000ドル × 120円 = 132万円 |
| トータルリターン | +32%(株+10%、為替+20%) |
| 状況 | 1ドル=100円で投資 → 1ドル=80円に円高 |
|---|---|
| 投資額 | 100万円(10,000ドル) |
| 米国株リターン | +10%(11,000ドル) |
| 円換算 | 11,000ドル × 80円 = 88万円 |
| トータルリターン | −12%(株+10%、為替−20%) |
為替ヘッジなしでは、円安なら利益が増え、円高なら利益が減る(または損失になる)という特徴があります。
為替ヘッジありの仕組み
「為替ヘッジあり」は、為替変動の影響をほぼゼロにするタイプです。
仕組み
為替予約やオプションを使って、将来の為替レートを固定します。円高になっても円安になっても、為替の影響をほぼ受けません。
メリット・デメリット
- 為替変動を気にしなくていい
- 円高局面でも株価リターンをそのまま享受
- 値動きがシンプルで分かりやすい
- ヘッジコストがかかる(年1〜3%程度)
- 円安局面では恩恵を受けられない
- 長期では「なし」に負けやすい
ヘッジコストとは
為替ヘッジにはコストがかかります。これは「金利差」に基づくもので、日米金利差が大きいほどコストも高くなります。
| 時期 | 日米金利差(目安) | ヘッジコスト(目安) |
|---|---|---|
| 2020年 | 約1.5% | 約1.5%/年 |
| 2023年 | 約5% | 約5%/年 |
| 2024〜2025年 | 約4% | 約4%/年 |
2024年現在、日米金利差が大きいため、ヘッジコストは年間4〜5%程度と非常に高くなっています。これは長期リターンに大きな悪影響を与えます。
為替ヘッジあり・なしの比較
| 項目 | ヘッジなし | ヘッジあり |
|---|---|---|
| 円安の影響 | プラス | 受けない |
| 円高の影響 | マイナス | 受けない |
| コスト | なし | 年1〜5% |
| 長期リターン | 高い傾向 | 低くなりがち |
| おすすめ期間 | 長期(10年以上) | 短期〜中期 |
どちらを選ぶべき?
長期投資なら「為替ヘッジなし」
結論から言うと、長期投資(10年以上)なら「為替ヘッジなし」がおすすめです。
でも円高になったら損しますよね?
短期的には円高で損することもあります。しかし、長期的に見ると為替は上下を繰り返すため、影響は平準化されます。一方、ヘッジコストは毎年確実にかかるため、長期では大きな差になります。
具体的なシミュレーション
100万円を20年間運用した場合(株式リターン年7%、ヘッジコスト年3%と仮定)。
| 項目 | ヘッジなし | ヘッジあり |
|---|---|---|
| 株式リターン | 7%/年 | 7%/年 |
| ヘッジコスト | 0%/年 | −3%/年 |
| 実質リターン | 7%/年 | 4%/年 |
| 20年後の資産 | 約387万円 | 約219万円 |
| 差額 | — | 168万円の差 |
ヘッジありがおすすめのケース
ただし、以下のケースでは「ヘッジあり」も選択肢になります。
人気ファンドの例
eMAXIS Slim シリーズ
| ファンド名 | 為替ヘッジ |
|---|---|
| eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | なし |
| eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | なし |
| eMAXIS Slim 先進国株式インデックス | なし |
人気のeMAXIS Slimシリーズは、基本的に「為替ヘッジなし」のみです。長期投資を前提とした商品設計になっています。
ヘッジありのファンド例
| ファンド名 | 信託報酬 |
|---|---|
| たわらノーロード 先進国株式(為替ヘッジあり) | 0.22% |
| ニッセイ外国株式インデックスファンド(為替ヘッジあり) | 0.22% |
為替リスクとの付き合い方
長期投資の視点
過去30年の円ドルレートを見ると、80円〜160円の間で推移しています。長期的には上下を繰り返すため、積立投資でタイミングを分散すれば、為替リスクは自然と軽減されます。
通貨分散という考え方
外国資産を持つこと自体が「通貨分散」になります。日本円だけに資産を集中させるリスクを避けられます。
円だけで資産を持っていると、日本経済の停滞やインフレに対して無防備です。外国資産を持つことで、円安時にも資産価値を維持できます。
まとめ
為替ヘッジあり・なしの選び方をまとめます。
- 為替ヘッジなし:円安でプラス、円高でマイナス、コストなし
- 為替ヘッジあり:為替変動の影響を抑える、ヘッジコストがかかる
- 長期投資(10年以上)なら「ヘッジなし」がおすすめ
- ヘッジコストは年1〜5%と大きい(2024年現在は高水準)
- 短期投資や為替変動を避けたい人は「ヘッジあり」も選択肢
- eMAXIS Slimシリーズは基本「ヘッジなし」
長期投資なら、為替変動を恐れずに「ヘッジなし」で積み立てましょう。
よくある質問
可能ですが、あまりおすすめしません。長期投資なら「なし」一本で問題ありません。両方持つと管理が複雑になり、結局中途半端になりがちです。
為替の予測は非常に難しく、プロでも当たらないことが多いです。予測に基づいて乗り換えると、タイミングを外してかえって損することも。長期投資なら一貫して「なし」を続ける方が賢明です。
全世界株式は複数通貨(ドル、ユーロ、円など)に分散されているため、1通貨に集中するより為替リスクは低くなります。米国株100%よりは分散効果があります。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。