「毎月お金がもらえる」——そんな魅力的なキャッチコピーで人気を集める毎月分配型投資信託。
しかし、この商品には大きな落とし穴があります。金融庁も注意喚起しており、長期の資産形成には向かない商品です。
この記事では、毎月分配型投資信託の問題点と、代わりにおすすめのファンドを解説します。
毎月分配型投資信託とは
毎月分配型投資信託とは、毎月決まった日に分配金を支払う投資信託です。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 分配頻度 | 毎月(年12回) |
| 分配金額 | 固定の場合が多い(例:毎月80円) |
| 対象 | 高齢者や年金生活者に人気 |
なぜ人気なのか
毎月お金がもらえるなら、年金の足しになって良さそうですね。
そう思いがちですが、分配金の正体を知ると印象が変わります。実は「運用益」ではなく「自分のお金」が払い戻されているケースが多いのです。
毎月分配型の最大の問題点:元本払戻金
普通分配金と元本払戻金
分配金には2種類あります。
| 種類 | 内容 | 課税 |
|---|---|---|
| 普通分配金 | 運用益から支払われる分配金 | 課税(約20%) |
| 元本払戻金(特別分配金) | 元本を取り崩して支払われる分配金 | 非課税 |
元本払戻金は「非課税」と聞くとお得に感じますが、実態は自分のお金が戻ってきているだけです。運用で増えたわけではなく、貯金を取り崩しているのと同じです。
具体例
100万円を投資して、毎月1万円の分配金をもらうケースを考えます。
| 月 | 運用益 | 分配金 | 普通分配金 | 元本払戻金 | 元本残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1月 | +5,000円 | 10,000円 | 5,000円 | 5,000円 | 995,000円 |
| 2月 | −3,000円 | 10,000円 | 0円 | 10,000円 | 985,000円 |
| 3月 | +2,000円 | 10,000円 | 2,000円 | 8,000円 | 977,000円 |
運用益が分配金に満たない月は、元本を取り崩して分配金を支払うことになります。毎月「お金がもらえる」と思っていたら、実は自分のお金が減っていたというケースは珍しくありません。
複利効果を失う問題
複利効果とは
投資で得た利益を再投資することで、利益が利益を生む効果を「複利効果」といいます。
| 投資方法 | 10年後 | 20年後 | 30年後 |
|---|---|---|---|
| 分配金なし(再投資) | 約163万円 | 約265万円 | 約432万円 |
| 分配金あり(分配金消費) | 約150万円 | 約200万円 | 約250万円 |
※100万円を年利5%で運用した場合の概算
毎月分配型は複利が効かない
毎月分配型は、運用益を分配金として払い出してしまうため、複利効果が働きません。
分配金を使わずに再投資すれば同じという意見もありますが、分配金を受け取る時点で課税されるため、税金分だけ不利になります。
信託報酬が高い
毎月分配型投資信託は、信託報酬(運用コスト)が高い傾向があります。
| ファンドの種類 | 信託報酬(目安) |
|---|---|
| 毎月分配型投信 | 1.0〜2.0%/年 |
| eMAXIS Slim 全世界株式 | 0.05775%/年 |
信託報酬が1%違うと、20年で約18%もリターンに差が出ます。
基準価額が下がり続ける
毎月分配型投資信託の多くは、基準価額が設定当初から大幅に下落しています。
典型的なパターン
| 時期 | 基準価額 | 状況 |
|---|---|---|
| 設定時 | 10,000円 | — |
| 5年後 | 7,000円 | 分配金支払いで下落 |
| 10年後 | 4,000円 | さらに下落 |
| 現在 | 2,000〜3,000円 | 当初の1/3〜1/5に |
分配金を支払うと、その分だけ基準価額が下がります。運用益が分配金を上回らない限り、基準価額は下がり続けます。
金融庁も注意喚起
金融庁は毎月分配型投資信託について、「長期の資産形成には向かない」と注意喚起しています。
実際、新NISAのつみたて投資枠では、毎月分配型投資信託は対象外です。これは金融庁が「長期投資に向かない」と判断しているからです。
こんな人は要注意
以下のような勧誘には注意してください。
代わりにおすすめのファンド
長期の資産形成には、分配金を出さないインデックスファンドがおすすめです。
| ファンド名 | 信託報酬 | 分配金 |
|---|---|---|
| eMAXIS Slim 全世界株式 | 0.05775% | なし(再投資) |
| eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 0.09372% | なし(再投資) |
老後に定期的にお金が欲しい場合
「毎月お金が欲しい」という場合は、必要な分だけ自分で売却する方法がおすすめです。
インデックスファンドを積み立てて資産を増やし、老後は必要な分だけ取り崩す方が効率的です。毎月分配型よりも、資産を長持ちさせられます。
毎月分配型が向いている人はいる?
正直なところ、ほとんどの人にはおすすめしません。ただし、以下のケースでは検討の余地があります。
| ケース | 理由 |
|---|---|
| 高齢で運用期間が短い | 複利効果を活かす時間がない |
| 自分で取り崩すのが難しい | 自動的に分配金がもらえる |
| 運用より「使う」を重視 | 資産を増やす目的ではない |
上記のケースでも、元本払戻金の仕組みは理解しておくべきです。「運用益がもらえる」のではなく、「自分のお金が戻ってくる」ことを認識しましょう。
まとめ
毎月分配型投資信託の問題点をまとめます。
- 分配金の多くは元本払戻金(自分のお金の払い戻し)
- 複利効果が働かないため長期リターンが低い
- 信託報酬が高い(年1〜2%)
- 基準価額が下がり続けるファンドが多い
- 新NISAのつみたて投資枠では対象外
- 長期投資には分配金なしのインデックスファンドがおすすめ
「毎月お金がもらえる」という甘い言葉に惑わされず、本質を理解して商品を選びましょう。
よくある質問
見かけの利回りが高くても、元本払戻金が含まれていれば「お得」とは言えません。基準価額が下がり続けていないか、元本払戻金の割合はどれくらいかを確認しましょう。
一概には言えませんが、含み損がなければ売却して、低コストのインデックスファンドに乗り換えることをおすすめします。含み損がある場合は、他の利益と損益通算してから売却するとお得です。
インデックスファンドを積み立てて、老後に必要な分だけ売却(取り崩し)する方法がおすすめです。「定率取り崩し」や「定額取り崩し」をサポートするサービスもあります。毎月分配型より効率的に資産を使えます。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。