「保険で貯蓄もできますよ」——保険の営業でこんな説明を受けたことはありませんか?
終身保険や養老保険などの貯蓄型保険は、「保障と貯蓄の両方ができる」と言われますが、資産形成の手段としては非効率です。
この記事では、貯蓄型保険と投資を比較し、なぜ「保険と投資は分ける」のが正解なのかを解説します。
貯蓄型保険とは
貯蓄型保険とは、保障機能と貯蓄機能を兼ね備えた保険商品です。主な種類は以下の通りです。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 終身保険 | 一生涯の死亡保障。解約時に返戻金あり |
| 養老保険 | 満期時に満期保険金。死亡時も同額の保険金 |
| 個人年金保険 | 一定年齢から年金形式で受け取り |
| 学資保険 | 子どもの教育資金を準備 |
「掛け捨てじゃないから、払った保険料が無駄にならない」って聞きました。
それは正しいですが、「無駄にならない=お得」ではありません。払った保険料以上に増えるかどうかが重要です。実際には、インフレを考慮すると「実質的に損」になるケースが多いです。
貯蓄型保険の「返戻率」の落とし穴
貯蓄型保険の営業では「返戻率105%」「返戻率110%」といった数字が強調されます。しかし、この数字には落とし穴があります。
返戻率と実質利回りの違い
| 項目 | 返戻率105%の例 |
|---|---|
| 保険料払込期間 | 30年間 |
| 払込保険料総額 | 500万円 |
| 解約返戻金 | 525万円 |
| 返戻率 | 105%(25万円のプラス) |
| 年平均利回り | 約0.16% |
え、30年かけて5%しか増えないんですか?
その通りです。「返戻率105%」は30年で5%増えるという意味であり、年利ではありません。年平均に直すと0.16%程度。普通預金とほぼ変わりません。
返戻率110%でも年利は低い
仮に返戻率110%(30年で10%増)でも、年平均利回りは約0.32%です。新NISAでインデックス投資すれば年5〜7%の期待リターンがありますから、効率の差は歴然です。
貯蓄型保険のメリット・デメリット
メリット
- 強制的に貯蓄できる(意志が弱くても続く)
- 死亡保障が付いている
- 死亡保険金の非課税枠を活用できる(相続対策)
- 元本割れしにくい(満期まで持てば)
- 実質利回りが非常に低い
- 途中解約で元本割れ
- 手数料が不透明(コストが見えにくい)
- インフレに弱い(将来の価値が目減り)
- 流動性が低い(すぐに引き出せない)
見えにくい手数料構造
貯蓄型保険の最大の問題は、手数料が不透明なことです。保険料の中には以下のコストが含まれています。
- 付加保険料(保険会社の運営費・人件費)
- 販売手数料(代理店への報酬)
- 利益マージン
これらは開示されないため、「実際にいくら運用に回っているか」がわかりません。一説では、保険料の20〜40%が手数料として引かれているとも言われています。
新NISA vs 貯蓄型保険
同じ金額を「貯蓄型保険」と「新NISAで投資信託」に回した場合を比較してみましょう。
シミュレーション条件
- 毎月の積立額:3万円
- 期間:30年間
- 総投資額:1,080万円
| 項目 | 貯蓄型保険 | 新NISA(投資信託) |
|---|---|---|
| 想定利回り | 年0.3%(返戻率110%相当) | 年5%(控えめ想定) |
| 30年後の金額 | 約1,130万円 | 約2,500万円 |
| 増加額 | +50万円 | +1,420万円 |
| 課税 | 一時所得(50万円控除後1/2課税) | 非課税 |
30年間で約1,370万円の差が生まれます。これが「保険で貯蓄」の機会損失です。
それぞれの特徴比較
| 項目 | 貯蓄型保険 | 新NISA |
|---|---|---|
| 期待リターン | 年0.1〜1%程度 | 年5〜7%程度 |
| 手数料 | 不透明(高い) | 年0.1%程度(明確) |
| 流動性 | 低い(途中解約で元本割れ) | 高い(いつでも売却可) |
| 元本保証 | なし(実質なし) | なし |
| 税制優遇 | 一時所得控除 | 運用益非課税 |
| 死亡保障 | あり | なし |
「保険は保障、投資は運用」が正解
結論として、保険と投資は分けて考えるのが合理的です。
おすすめの考え方
- 保障(万が一への備え)→ 掛け捨ての定期保険
- 貯蓄・運用(資産を増やす)→ 新NISAで投資信託
掛け捨て + 投資の方が効率的
例えば、毎月3万円を「貯蓄型保険」に払う代わりに、以下のように分けます。
| 用途 | 金額 | 商品 |
|---|---|---|
| 保障(死亡保険) | 3,000円/月 | 掛け捨ての定期保険 |
| 運用(資産形成) | 27,000円/月 | 新NISAでインデックス投資 |
これで十分な死亡保障を確保しながら、効率的に資産形成ができます。
貯蓄型保険を解約すべきか?
すでに貯蓄型保険に加入している方は、以下の観点で判断しましょう。
解約を検討すべきケース
- 加入からまだ数年以内(早期解約の損失が小さい)
- 死亡保障が不要になった(子どもが独立したなど)
- 他に十分な資産がある
- 保険料の支払いが家計を圧迫している
継続を検討すべきケース
- 払込期間が残りわずか(あと数年で満期)
- 相続対策として活用したい
- 解約返戻金が払込保険料の90%以上になっている
加入から10年以上経っていて、あと数年で払込完了なら、継続した方がいいかもしれません。すでに高い手数料を払い終えているからです。逆に、加入して間もないなら、早めに損切りして新NISAに切り替える方が長期的にはプラスになる可能性が高いです。
貯蓄型保険が向いている人
それでも貯蓄型保険が向いているケースもあります。
こんな人には向いている
- 強制的に貯蓄したい(意志が弱く、投資を続けられない)
- 投資の値動きに耐えられない(元本割れが絶対に嫌)
- 相続対策として死亡保険金の非課税枠を使いたい
- 会社の団体保険で有利な条件で加入できる
死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。相続財産が多い方は、この枠を活用するために終身保険に加入するケースがあります。
外貨建て保険・変額保険はどうか
「利回りが高い」と勧められることがある外貨建て保険や変額保険も注意が必要です。
外貨建て保険
- 為替リスクがある(円高で元本割れ)
- 手数料が円建てより高いことが多い
- 満期時の為替で損益が大きく変わる
変額保険
- 運用成績によって保険金・返戻金が変動
- 投資信託と同様のリスクがあるのに、手数料は保険の方が高い
- 「投資したいなら直接投資信託を買う」方が合理的
外貨建て・変額保険は「投資のリスクを取りながら、保険の高い手数料も払う」という構造です。投資がしたいなら、新NISAで直接投資信託を買う方が効率的です。
まとめ
貯蓄型保険と投資の比較ポイントを整理します。
- 貯蓄型保険の返戻率は年利ではない(30年で5%増=年0.16%)
- 新NISAなら年5〜7%の期待リターンで非課税
- 手数料は保険が不透明、投資信託は年0.1%程度で明確
- 「保険は保障、投資は運用」で分けるのが合理的
- 掛け捨て保険 + 新NISAの組み合わせがおすすめ
- すでに加入中の人は、残りの払込期間で判断
保険と投資を正しく使い分けて、効率的な資産形成を目指しましょう。
よくある質問
「損」とは言い切れませんが、資産形成の効率としては良くありません。実質利回りは年0.1〜1%程度で、新NISAの投資信託(期待リターン年5〜7%)と比べると大きな差があります。ただし、強制的に貯蓄できる仕組みや相続対策としては価値があります。
ケースバイケースです。払込期間が残り少ない場合は継続した方がいいでしょう。逆に、加入して数年以内なら、早めに解約して新NISAに切り替える方が長期的にはプラスになる可能性が高いです。解約返戻金と残りの保険料を比較して判断してください。
確かに投資にはリスクがありますが、貯蓄型保険も「インフレによる実質目減り」「途中解約での元本割れ」というリスクがあります。また、保険会社も集めた保険料を運用(投資)しています。リスクを避けたいなら現金・預金が最も確実ですが、資産を増やしたいなら投資の方が合理的です。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。