「米国株の配当金、思ったより少ない…」と感じたことはないでしょうか。それもそのはず、米国株の配当金には米国と日本で二重に課税されており、手取りは約7割まで減ってしまいます。
この記事では、米国株の配当金にかかる税金の仕組みと、確定申告で取り戻す方法を解説します。
米国株の配当金にかかる税金の仕組み
米国株から配当金を受け取ると、以下の2段階で課税されます。
| 課税国 | 税率 | 課税タイミング |
|---|---|---|
| 米国 | 10% | 配当金支払い時に源泉徴収 |
| 日本 | 20.315% | 米国課税後の金額に対して課税 |
合計30%以上も取られるってことですか?
計算上はそうですが、実際は少し複雑です。日本の税金は「米国で10%引かれた後の金額」に対してかかるため、実質的な税負担は約28.3%になります。
具体的な計算例
100ドルの配当金を受け取った場合:
- 米国での源泉徴収:100ドル × 10% = 10ドル
- 米国課税後の金額:100ドル − 10ドル = 90ドル
- 日本での課税:90ドル × 20.315% = 約18.28ドル
- 手取り:100ドル − 10ドル − 18.28ドル = 約71.72ドル
手取りは配当金の約71.7%。逆に言えば、約28.3%が税金として引かれています。
年間配当額別の税金シミュレーション
1ドル=150円で計算した場合の年間税金額です。
| 年間配当(税引前) | 米国源泉徴収 | 日本での税金 | 合計税金 | 手取り |
|---|---|---|---|---|
| 30万円(2,000ドル) | 3万円 | 約5.5万円 | 約8.5万円 | 約21.5万円 |
| 50万円(3,333ドル) | 5万円 | 約9.1万円 | 約14.1万円 | 約35.9万円 |
| 100万円(6,667ドル) | 10万円 | 約18.3万円 | 約28.3万円 | 約71.7万円 |
年間配当50万円の場合、外国税額控除を申請すると最大5万円程度が還付される可能性があります。100万円なら最大10万円です。確定申告の手間をかける価値があるかの判断材料にしてください。
二重課税を解消する「外国税額控除」
この二重課税を解消するのが外国税額控除という制度です。確定申告をすることで、米国で支払った税金を日本の所得税・住民税から差し引くことができます。
外国税額控除を使えば、米国で引かれた10%が全額戻ってくるんですか?
残念ながら全額が戻るとは限りません。控除には「限度額」があり、所得に占める国外所得の割合によって上限が決まります。
控除限度額の計算式
所得税の控除限度額 = 所得税額 ×(国外所得 ÷ 所得総額)
たとえば、年間所得500万円のうち米国株配当が50万円(10%)の場合、所得税額の10%が控除限度額となります。
米国株は国内株式と異なり「配当控除」が受けられません。総合課税を選んでも配当控除は適用されないため、申告分離課税との損益通算が有利になるケースもあります。
NISA口座での米国株配当は要注意
NISA口座で保有する米国株の配当金は、外国税額控除の対象外です。
| 項目 | 課税口座 | NISA口座 |
|---|---|---|
| 米国での源泉徴収(10%) | かかる | かかる |
| 日本での課税(20.315%) | かかる | 非課税 |
| 外国税額控除 | 申請可能 | 申請不可 |
| 手取り | 約71.7% → 控除後約81.7% | 90% |
NISA口座では日本の税金は非課税ですが、米国での10%は引かれます。ただし「二重課税」ではないため、外国税額控除は使えません。それでも手取り90%なのでNISA口座の方が有利です。
確定申告のやり方
外国税額控除を受けるには、確定申告が必要です。
証券会社から「年間取引報告書」をダウンロードします。外国税額の記載を確認しましょう。
国税庁の「確定申告書作成コーナー」またはe-Taxで申告書を作成します。配当所得は「総合課税」または「申告分離課税」を選択できます。
「外国税額控除に関する明細書」に、支払った外国税額を記入して添付します。
確定申告期間(翌年2月16日〜3月15日)に申告します。還付がある場合は、1〜2ヶ月程度で指定口座に振り込まれます。
特定口座(源泉徴収あり)を利用していても、外国税額控除を受けるには確定申告が必要です。
ADR(米国預託証券)の配当金は税金が異なる
ADR(American Depositary Receipt)とは、米国市場で取引される外国企業の株式です。例えば、台湾のTSMC(TSM)やイギリスのユニリーバ(UL)などがあります。
ADRの税金の特徴
ADRの配当金には、発行元企業の国の税金がかかります。
| ADR発行元の国 | 源泉徴収税率 | 代表的な銘柄 |
|---|---|---|
| イギリス | 0% | BP、シェル、ユニリーバ |
| オーストラリア | 0% | BHPグループ |
| 台湾 | 21% | TSMC |
| インド | 20% | インフォシス |
イギリスやオーストラリアのADRは現地での源泉徴収がゼロなので、日本の20.315%だけで済みます。高配当株を選ぶならイギリス企業のADRも選択肢になります。
ADRには「ADR手数料」が配当から差し引かれることがあります。1株あたり数セント程度ですが、配当利回りに影響するため確認しておきましょう。
確定申告すべきか判断するポイント
外国税額控除のために確定申告するかどうかは、以下の点を考慮して判断しましょう。
- 米国で引かれた税金の一部が戻る
- 過去3年分の繰越控除も利用可能
- 確定申告の手間がかかる
- 所得が増えることで社会保険料が上がる可能性
- 扶養控除に影響する場合がある
損益分岐点の目安
確定申告にかかる時間を2〜3時間と仮定し、時給換算で判断すると:
| 年間配当(税引前) | 還付額の目安 | 確定申告すべきか |
|---|---|---|
| 10万円以下 | 〜1万円 | △ 手間が見合わない可能性 |
| 10〜30万円 | 1〜3万円 | ○ e-Taxに慣れていればメリットあり |
| 30〜50万円 | 3〜5万円 | ◎ 確定申告を推奨 |
| 50万円以上 | 5万円以上 | ◎ 確定申告必須レベル |
還付額は所得構成によって変わりますが、年間配当30万円以上なら確定申告する価値は十分あります。一度やり方を覚えれば翌年以降は楽になりますよ。
e-Taxなら証券会社の年間取引報告書のデータを取り込めるため、入力の手間が大幅に減ります。マイナンバーカードがあれば、スマホからでも申告可能です。
まとめ
米国株の配当金にかかる税金のポイントを整理します。
- 米国株の配当金には米国10%+日本20.315%の税金がかかる
- 手取りは約71.7%(二重課税状態)
- 確定申告で外国税額控除を申請すれば、米国で払った税金を取り戻せる
- ただし、控除には限度額があり全額は戻らないことも
- NISA口座は外国税額控除の対象外だが、手取り90%でそもそも有利
配当収入がある程度まとまった金額になったら、確定申告を検討してみてください。
よくある質問
米国で10%、日本で約20.315%が課税され、手取りは約71.7%です。確定申告で外国税額控除を申請すれば、一部を取り戻せます。
NISAでは日本の税金は非課税のため、二重課税ではありません。米国の10%のみ源泉徴収され、手取りは90%です。外国税額控除は使えません。
全額とは限りません。控除限度額は「所得税額×(国外所得÷所得総額)」で計算され、所得構成によって上限が決まります。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。