「海外不動産を持っていると、確定申告が必要なんですか?」
——はい、必要です。日本は「全世界所得課税方式」を採用しているため、海外で得た収入も日本で申告義務があります。
海外不動産の賃貸収入は総合課税(最高税率45%+住民税)、売却益は分離課税(長期20.315%、短期39.63%)。現地で支払った税金は「外国税額控除」で二重課税を調整できます。さらに2021年の税制改正で、海外中古不動産の減価償却を使った節税スキームは封じられました。
この記事では、海外不動産オーナーの確定申告を完全解説します。
確定申告の基本:全世界所得課税
日本居住者は全世界所得が課税対象
日本の税法では、居住者(日本に住所がある人)は全世界で得た所得に対して納税義務があります。
| 居住区分 | 課税範囲 |
|---|---|
| 居住者(非永住者以外) | 全世界所得(海外不動産含む) |
| 非永住者 | 国内所得+国外から送金された所得 |
| 非居住者 | 国内源泉所得のみ |
つまり、海外で税金を払っても、日本でも申告が必要ということですか?
その通りです。海外の現地で所得税を支払っていても、日本でも確定申告が必要です。ただし「外国税額控除」という制度で、現地で支払った税金を日本の税額から差し引くことができます。二重課税を完全に回避できるわけではありませんが、調整は可能です。
賃貸収入の確定申告
不動産所得は総合課税
海外不動産からの賃貸収入は「不動産所得」として、給与所得など他の所得と合算して総合課税されます。
| 課税所得 | 税率(所得税+住民税) |
|---|---|
| 195万円以下 | 15%(5%+10%) |
| 195〜330万円 | 20%(10%+10%) |
| 330〜695万円 | 30%(20%+10%) |
| 695〜900万円 | 33%(23%+10%) |
| 900〜1,800万円 | 43%(33%+10%) |
| 1,800〜4,000万円 | 50%(40%+10%) |
| 4,000万円超 | 55%(45%+10%) |
※上記に加えて復興特別所得税(所得税額の2.1%)が課されます。
不動産所得の計算方法
不動産所得 = 総収入金額 − 必要経費
収入に含まれるもの
- 賃料収入
- 礼金・更新料
- 共益費
- 敷金・保証金のうち返還しない部分
必要経費に含まれるもの
- 減価償却費
- 修繕費
- 管理費・手数料
- 保険料
- 固定資産税(現地)
- 借入金利息
- 渡航費(物件確認目的)
為替はどう計算するんですか?
収入はTTB(電信買相場)、経費はTTS(電信売相場)で換算するのが原則です。継続適用を条件に、取引日のレートを使用できます。実務では、月末レートの平均を使うことも認められています。計算が複雑になるので、年間の取引をまとめて一括換算する方法も選択肢です。
減価償却の計算
海外不動産でも、建物部分は減価償却できます。
| 構造 | 法定耐用年数 |
|---|---|
| 鉄筋コンクリート(RC) | 47年 |
| 重量鉄骨 | 34年 |
| 木造 | 22年 |
2021年度の税制改正で、国外の中古不動産を使った損益通算が制限されました。海外の中古建物について「簡便法」で計算した減価償却費のうち、日本国内の所得と損益通算できる金額が制限されます。節税目的の海外中古不動産投資は困難になりました。ただし、売却時には制限された減価償却費相当額が取得費に加算され、譲渡所得が圧縮されます。
売却益(譲渡所得)の確定申告
譲渡所得は分離課税
海外不動産を売却した場合の譲渡所得は、他の所得と分離して課税されます。
| 区分 | 所有期間 | 税率 |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
所有期間は「売却した日」ではなく「売却した年の1月1日時点」で判定します。例えば、2020年4月に購入した物件を2025年6月に売却した場合、2025年1月1日時点では4年9ヶ月しか経過していないため「短期譲渡」となります。長期譲渡にしたい場合は2026年1月以降の売却が必要です。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用
取得費に含まれるもの
- 物件購入価格
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用
- 不動産取得税
- 印紙税
- 建物の減価償却累計額を差し引いた残額
譲渡費用に含まれるもの
- 売却時の仲介手数料
- 測量費
- 立退料
- 売買契約書の印紙税
取得費がわからない場合はどうなりますか?
取得費が不明な場合は「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とすることができます。ただし、これは非常に不利な計算になります。例えば1億円で売却した場合、取得費は500万円とみなされ、9,500万円が譲渡所得になってしまいます。購入時の契約書や領収書は必ず保管しておいてください。
米国不動産売却時の源泉徴収(FIRPTA)
米国不動産を売却する場合、FIRPTA(Foreign Investment in Real Property Tax Act)により、売却価格の15%が米国所得税として源泉徴収されます。
| 条件 | 源泉徴収率 |
|---|---|
| 売却価格$300,000以下(買主が居住用) | 0% |
| 売却価格$300,001〜$1,000,000 | 10% |
| 売却価格$1,000,001以上 | 15% |
この源泉徴収された税金は、外国税額控除の対象となります。
外国税額控除
二重課税を調整する仕組み
外国税額控除とは、海外で支払った所得税を日本の所得税から差し引く制度です。
控除限度額の計算式
控除限度額 = 日本の所得税額 ×(国外所得 ÷ 全世界所得)
海外で払った税金は全額控除できるんですか?
いいえ、控除限度額があります。日本で支払う所得税額のうち、国外所得に対応する部分が限度です。例えば、日本の所得税額が100万円、国外所得が全体の30%なら、控除限度額は30万円。海外で40万円の税金を払っていても、控除できるのは30万円までです。ただし、控除しきれなかった10万円は3年間繰り越せます。
外国税額控除 vs 経費算入
海外で支払った税金の処理方法は2つあります。
| 方法 | 内容 | メリット |
|---|---|---|
| 外国税額控除 | 税額から直接控除 | 控除効果が大きい |
| 経費算入 | 租税公課として経費処理 | 計算がシンプル |
外国税額控除と経費算入は、部分的に使い分けることができません。どちらか一方を選択し、その年の海外で支払った税金すべてに適用する必要があります。一般的には外国税額控除の方が有利ですが、国外所得が少ない場合は経費算入が有利になることもあります。
確定申告の手続き
申告期間と提出先
- 申告期間:毎年2月16日〜3月15日
- 提出先:住所地を管轄する税務署
- 提出方法:窓口、郵送、e-Tax
必要書類
賃貸収入の申告
- 確定申告書B
- 不動産所得の内訳書
- 外国税額控除明細書(控除を受ける場合)
- 賃貸契約書(コピー)
- 送金記録・銀行明細
- 経費の領収書
- 現地の課税証明書
売却益の申告
- 確定申告書B
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)
- 外国税額控除明細書
- 売買契約書
- 購入時の契約書・領収書
- 現地の源泉徴収票(FIRPTAなど)
外国語の書類はどうすればいいですか?
原則として、外国語の書類は日本語訳を添付する必要があります。ただし、数字や日付など明らかに内容が分かる部分は訳さなくても認められることが多いです。重要な契約書は、要約翻訳を用意しておくと安心です。税務署から翻訳を求められた場合に備えて、準備しておきましょう。
国外財産調書・財産債務調書
国外財産調書
年末時点で国外財産が5,000万円を超える場合、「国外財産調書」の提出が義務付けられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出基準 | 12月31日時点で国外財産5,000万円超 |
| 提出期限 | 翌年3月15日 |
| 罰則 | 未提出・虚偽記載で過少申告加算税が5%加重 |
財産債務調書
所得2,000万円超かつ財産3億円超の場合は「財産債務調書」の提出が必要です。
国外財産調書・財産債務調書を提出しない場合、税務調査で申告漏れが発覚した際に過少申告加算税が5%加重されます。逆に、適正に提出していれば5%軽減されます。海外不動産を保有している場合は、必ず提出要件を確認してください。
投資判断:確定申告のポイント
- 外国税額控除で二重課税を調整可能
- 経費計上で課税所得を圧縮
- 長期保有で譲渡所得税率が低下(39.63%→20.315%)
- 減価償却費の計上(建物部分)
- 控除しきれない外国税額は3年間繰越可能
- 全世界所得課税で申告義務あり
- 2021年税制改正で海外中古不動産の節税スキーム封鎖
- 外国税額控除には限度額あり
- 外国語書類の翻訳が必要
- 国外財産調書の提出義務
- 為替換算の計算が複雑
まとめ
海外不動産の確定申告のポイント:
- 申告義務:日本居住者は全世界所得が課税対象
- 賃貸収入:総合課税(最高税率55%)
- 売却益:分離課税(長期20.315%、短期39.63%)
- 外国税額控除:二重課税を調整、限度額あり
- 減価償却:2021年改正で海外中古不動産の節税スキーム制限
- 国外財産調書(5,000万円超)の提出を忘れずに
海外不動産の税務は複雑です。特に外国税額控除の計算、為替換算、減価償却の制限など、専門的な知識が必要な部分が多くあります。確定申告に不安がある場合は、国際税務に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
よくある質問
日本居住者であれば、海外不動産からの収入(賃貸収入・売却益)は確定申告が必要です。日本は全世界所得課税方式を採用しているため、海外で得た所得も日本での申告義務があります。海外で税金を支払っていても、日本での申告は免除されません。
海外で支払った所得税を日本の所得税から差し引く制度です。二重課税を調整するためのもので、控除限度額は「日本の所得税額×(国外所得÷全世界所得)」で計算されます。控除しきれなかった外国税額は3年間繰り越せます。
所有期間5年超なら長期譲渡所得で20.315%、5年以下なら短期譲渡所得で39.63%です。注意点は、5年の判定は「売却した年の1月1日時点」で行うこと。2020年4月購入の物件を長期譲渡にするには2026年1月以降の売却が必要です。
国外の中古不動産を使った損益通算が制限されました。以前は、海外の中古建物を簡便法で短期間に減価償却し、不動産所得の赤字を給与所得などと損益通算する節税スキームが可能でした。改正後は、この減価償却費の損益通算が制限されています。
年末時点で国外財産が5,000万円を超える場合、国外財産調書の提出が義務です。提出しない場合、税務調査で申告漏れが発覚した際に過少申告加算税が5%加重されます。適正に提出していれば5%軽減されるので、必ず提出しましょう。
※本記事は情報提供を目的としており、税務アドバイスを提供するものではありません。
税制は改正される可能性があります。具体的な申告については、税理士等の専門家にご相談ください。
海外不動産投資にはリスクが伴います。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。