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英国Renters' Rights Act 5月施行|Section 21廃止で日本人オーナーが今すぐ対応すべきこと
法規制・税金 ニュース

英国Renters' Rights Act 5月施行|Section 21廃止で日本人オーナーが今すぐ対応すべきこと

2026-03-19
2026-03-19 更新

2026年5月1日、英国でRenters' Rights Actが施行されSection 21(ノーフォルト立退き)が完全廃止。前払い家賃の1ヶ月制限、家賃ビッディング禁止など、日本人投資家が把握すべき変更と対策を整理します。

英国で賃貸物件を持つ日本人投資家にとって、2026年5月1日は節目の日になります。Renters' Rights Act 2025が施行され、Section 21(ノーフォルト立退き)が完全に廃止されます。

1988年のHousing Act以来、約40年ぶりとなる民間賃貸セクターの大改革です。1,100万人の賃借人に新たな権利が付与される一方、家主側には従来にない制約が課されます。すでに41%の家主が2026年中の物件売却を検討しており(NRLA調査、2023-24年は19%)、市場構造が大きく変わりつつあります。

この記事では、日本人投資家が押さえるべき法改正の要点と実務対応を解説します。

法改正の全体像 — 何が変わるのか

英国の賃貸住宅街

英国の賃貸住宅街
Photo by Benjamin Davies on Unsplash
読者
読者

Renters' Rights Actの主な変更点を教えてください。

鈴木(国際税務スペシャリスト)
鈴木(国際税務スペシャリスト)

大きく5つあります。Section 21の廃止がもっとも注目されていますが、家賃や契約形態にも重要な変更が入っています。

項目 旧制度 新制度(2026年5月1日〜)
ノーフォルト立退き Section 21で2ヶ月通知、理由不要 完全廃止
契約形態 定期借家(AST)が主流 すべて周期借家(periodic)に移行
前払い家賃 制限なし(6ヶ月分要求も可) 最大1ヶ月分
家賃値上げ 制限なし 年1回のみ、テナントが異議申立可能
家賃ビッディング 容認 禁止
テナント拒否理由 家主の裁量 給付金受給・子供を理由にした拒否は違法
重要

既存のAssured Shorthold Tenancy(AST)も、施行日以降は自動的に周期借家に変換されます。「契約満了で退去」という運用はできなくなります。家主は5月31日までに政府発行の情報シートをテナントに送付する義務があります。

Section 21廃止の実務的影響

賃貸管理の変化

賃貸管理の変化
Photo by Tierra Mallorca on Unsplash

Section 21に代わり、家主はSection 8に基づく法定事由での立退きのみ可能になります。

立退きが認められるケース

  • 家賃滞納:3ヶ月以上の滞納(従来は2ヶ月。基準が引き上げられた点に注意)
  • 物件売却:4ヶ月前に書面通知が必要
  • 自己使用:家主本人または近親者の居住目的(4ヶ月通知)
  • 大規模改修:居住不可能な水準の工事が必要な場合
  • 反社会的行動:テナントによる重大な迷惑行為
読者
読者

売却する場合は立退きを求められるんですね。それなら大きな問題ではないのでは?

鈴木
鈴木

手続き自体は可能ですが、ハードルがあります。まず、新規テナンシーの最初12ヶ月は退去要求ができない「保護期間」が設けられます。さらに売却目的で退去させた場合、16ヶ月間は同じ物件を再び賃貸に出せません。加えて裁判所の所有権請求手続きは現状で平均6ヶ月以上かかっており、施行後はさらに長期化する見込みです。

日本の借地借家法との比較

方向性としては日本の「正当事由」制度に近くなります。ただし、英国の新制度では売却が法定事由として明示されている点は、日本より投資家に配慮された設計です。

比較項目 英国(新制度) 日本(借地借家法)
理由なし退去 不可(Section 21廃止) 不可(正当事由必要)
売却目的の退去 4ヶ月通知で可能 正当事由として認められにくい
テナントの退去通知 2ヶ月前 期間満了の1〜6ヶ月前
立退料 法定なし 実務上発生することが多い

前払い家賃制限と家賃ビッディング禁止

家賃の新ルール

家賃の新ルール
Photo by Alexander Mils on Unsplash

前払い家賃:最大1ヶ月分に制限

従来、英国では信用力に不安のあるテナント(特に外国人・学生)に対して3〜6ヶ月分の前払い家賃を要求することが一般的でした。新法ではこれが最大1ヶ月分に制限されます。

日本人オーナーにとって、前払い家賃は非居住者として信用リスクをヘッジする重要な手段でした。これが使えなくなるため、家賃保証保険(Rent Guarantee Insurance)への加入が事実上必須になります。保険料は年間家賃の3〜5%が目安です。

家賃ビッディング禁止

ロンドンなど需要過多のエリアで横行していた、テナント候補に提示家賃を超える金額を入札させる慣行が禁止されます。家主やエージェントが入札を促すこと自体が違法行為となります。

ポイント

ビッディングは禁止されますが、提示家賃自体の設定に上限はありません。市場相場に基づいた適正な初期家賃設定の重要性が増します。

印紙税との合わせ技 — 日本人投資家の取得コスト

英国の税務コスト

英国の税務コスト
Photo by Scott Graham on Unsplash

賃貸規制の強化と並行して、物件取得コストも上昇しています。

税目 税率 備考
追加物件サーチャージ(SDLT) 5% 2025年4月〜(旧3%)
非居住者サーチャージ 2% 英国に年183日未満滞在の場合
合計追加税率 7% 基本税率に上乗せ

例えば£300,000(約5,700万円)の物件を日本人が追加購入する場合、基本税率分と合わせて約£30,000〜35,000(570〜670万円)の印紙税が発生します。

読者
読者

規制が厳しくなって取得コストも上がる。英国投資はもう割に合わないのでは?

鈴木
鈴木

一概にそうとは言い切れません。この後説明しますが、小規模家主の大量退出によって賃貸供給が減り、家賃は上昇基調です。規制に対応できるプロの投資家にとっては、競合が減った市場で利回り5.8%(全国平均)を確保できる環境とも言えます。

小規模家主の大量退出 — 市場構造の変化

家主の市場退出

家主の市場退出
Photo by Sean Pollock on Unsplash

今回の法改正は、英国の賃貸市場のプレイヤー構成を根本から変えつつあります。

NRLAの調査によれば、41%の家主が2026年中に物件売却を検討しています。2025年にはすでに約93,000人のBuy-to-Let家主が市場から退出しました。

退出の主な理由

  • Section 21廃止によるテナント管理の複雑化
  • 印紙税サーチャージの5%への引き上げ
  • 住宅ローン金利の上昇(2025年平均約5%)
  • EPC(エネルギー性能証明書)基準強化への改修コスト
メリット
  • 小規模家主の退出で競合が減少し、優良物件の取得機会が拡大
  • テナントの長期居住が促進され、空室率の低下と安定収入が見込める
  • 賃貸供給の減少により家賃は上昇基調
  • 法制度の透明性向上で市場が読みやすくなる
デメリット
  • 問題テナントの退去に時間とコストが増加(裁判所手続き6ヶ月以上)
  • 前払い家賃制限で信用リスクの保全手段が限定される
  • 取得時の印紙税が合計7%に上昇
  • 管理会社の対応力によって運用品質に差が出やすくなる

日本人オーナーが5月までにやるべき対策

実務対策チェックリスト

実務対策チェックリスト
Photo by Glenn Carstens-Peters on Unsplash

施行日まで残り約6週間です。以下を優先的に確認してください。

既存物件のオーナー

  • 管理会社への確認:Section 8手続きの経験・体制があるか。新法対応の運用マニュアルが整備されているか
  • 家賃保証保険の加入:前払い家賃制限への対応として必須。年間家賃の3〜5%が目安
  • テナント情報シートの送付:政府発行の情報シートを5月31日までにテナントへ送付する義務あり(3月からGOV.UKで公開予定)
  • 賃貸借契約の確認:既存ASTは自動変換されるが、契約条項が新法に適合しているか管理会社と確認
  • EPC評価の確認:エネルギー性能基準の厳格化も進行中。改修が必要な場合は早めに着手

新規購入を検討中の場合

  • 利回り計算の見直し:印紙税7%、家賃保証保険3〜5%、管理コスト上昇を織り込んだ実質利回りを再計算
  • エリア選定:ロンドン以外の地方都市(マンチェスター、バーミンガム等)は利回りが高く、規制対応コストを吸収しやすい
  • 法人での購入:個人より法人保有の方が税制上有利なケースが増加。専門家への相談を推奨

まとめ

  • 施行日:2026年5月1日。Section 21は4月30日が最終通知期限
  • 最大の変更:ノーフォルト立退きの完全廃止。立退きにはSection 8の法定事由が必要
  • 新規テナンシーの保護期間:最初12ヶ月は退去要求不可
  • 前払い家賃:最大1ヶ月分に制限
  • 家賃:値上げは年1回のみ、ビッディング禁止
  • 印紙税:日本人投資家は追加物件で合計7%の上乗せ
  • 家主退出:41%が売却検討、93,000人が2025年に退出済み
  • 利回り:全国平均5.8%。供給減で上昇基調

規制強化で小規模家主が退出する一方、法改正に対応できるプロの投資家にとっては競合減少・家賃上昇・長期安定入居という追い風が吹いています。重要なのは、新法の実務対応を5月までに完了させることです。

よくある質問

Q
Section 21が廃止された後、テナントに退去してもらうにはどうすればよいですか?
A

Section 8に基づく法定事由が必要です。家賃滞納(3ヶ月以上)、物件売却、自己使用、大規模改修、反社会的行動などが該当します。売却目的の場合は4ヶ月前の書面通知が求められ、新規テナンシーの最初12ヶ月は退去要求自体ができません。

Q
前払い家賃が1ヶ月に制限される場合、信用リスクはどう管理すればよいですか?
A

家賃保証保険(Rent Guarantee Insurance)が最も現実的な対策です。年間家賃の3〜5%程度の保険料で、滞納時の家賃を最大12ヶ月分カバーする商品が一般的です。併せてテナント審査(credit referencing)の厳格化も重要になります。

Q
日本人が英国で追加物件を購入する場合、印紙税は合計でいくらですか?
A

基本の印紙税率に加え、追加物件サーチャージ5%と非居住者サーチャージ2%が上乗せされ、合計7%の追加税率です。£300,000の物件では約£30,000〜35,000(570〜670万円)の印紙税が発生します。

Q
規制強化後も英国不動産に投資する価値はありますか?
A

小規模家主の退出で賃貸供給が減少し、家賃は上昇基調です。全国平均利回りは5.8%を維持しており、法改正に対応できる投資家にとっては競合が減った市場で安定収入を得るチャンスといえます。海外不動産の法規制対応は合同会社四次元でもご相談を承っています。

Q
既存の賃貸借契約は自動的に変わりますか?
A

はい。既存のAST(Assured Shorthold Tenancy)は施行日以降、自動的に周期借家(periodic tenancy)に変換されます。家主は5月31日までに政府発行の情報シートをテナントに送付する義務があります。

Tags

イギリス不動産 賃貸規制 Section 21 印紙税 Buy-to-Let
鈴木 この記事の筆者

鈴木

WORLD PROPERTY

Big4税理士法人で国際税務を担当後、独立。海外不動産に関する税務相談を専門に手がける。

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