「アメリカの不動産って、外国人でも自由に買えるんじゃなかったっけ?」
——以前はそうでした。しかし、その前提が急速に崩れつつあります。
2025年、全米38州で194本もの外国人土地所有制限法案が提出され、15州が実際に新法を成立させました。テキサス、ケンタッキー、ウェストバージニアは州として初めて外国人の土地所有を制限する法律を制定しています。
一方で、2026年2月6日には米財務省がCFIUS(対米外国投資委員会)の「Known Investor Program(KIP)」に関するパブリックコメントの募集を開始しました。これは同盟国からの投資を迅速化する仕組みで、日本はその恩恵を受ける可能性が高い。
「規制強化」と「同盟国優遇」が同時に進む、複雑な状況です。日本人投資家として何に注意すべきか、整理していきます。
CFIUS「Known Investor Program」とは
2026年2月6日の動き
米財務省は2月6日、CFIUS Known Investor Program(KIP)に関するRequest for Information(RFI: 情報提供依頼)を連邦官報に掲載しました。パブリックコメントの締切は2026年3月18日です。
Known Investor Programって何ですか?CFIUSの審査が免除されるということ?
免除ではなく「迅速化」です。KIPは、適格な外国投資家の情報を事前に収集・審査しておくことで、実際の投資案件が出てきたときのCFIUS審査プロセスを効率化する仕組みです。いわば「事前登録制度」ですね。パイロット段階では、過去3年以内にCFIUSに3件以上の取引を申請し、今後1年以内に追加の取引を予定している投資家が対象です。
KIPの適格要件
現時点で公開されている適格要件は以下の通りです。
- 過去3年以内にCFIUSへ3件以上の取引を申請した実績
- 今後1年以内に追加の取引を予定していること
- CFIUSのコンプライアンス違反歴がないこと
- 「敵対国」に関連する主体ではないこと
KIPにおける「敵対国(Adversary Countries)」は、連邦規則に基づき以下の国が指定されています:中国(香港・マカオ含む)、ロシア、イラン、北朝鮮、キューバ、ベネズエラ(マドゥロ政権)。日本はもちろん該当しません。むしろ日本は米国の主要な同盟国として、KIPの恩恵を受ける立場です。
トランプ政権の「America First Investment Policy」
このKIPの流れは、2025年2月21日にトランプ大統領が署名した国家安全保障大統領覚書「America First Investment Policy」に端を発しています。
このポリシーは一見矛盾するような2つの方向性を持っています。
- 同盟国・パートナー国からの投資を促進する(ファストトラック導入)
- 敵対国からの投資を徹底的に制限する(特に農地・軍事施設周辺)
日本は明確に「1」の側にいます。しかし、問題は連邦レベルと州レベルで規制の「粒度」が違うことです。
38州194法案——州レベルの規制拡大
何が起きているのか
連邦レベルのCFIUSとは別に、各州が独自に外国人の土地所有を制限する動きが加速しています。
| 指標 | 2025年の実績 |
|---|---|
| 法案が提出された州 | 38州 |
| 提出された法案数 | 194本 |
| 新法を成立させた州 | 15州 |
| うち初めて制定した州 | 3州(テキサス、ケンタッキー、ウェストバージニア) |
| 片院を通過した州 | 10州 |
これは2024年の22州から大幅に拡大しています。MultiStateの分析によれば、外国人の土地所有規制は「最も活発な州レベルの政策テーマの一つ」になっています。
38州ってほとんどの州じゃないですか。日本人も対象になるんですか?
ここが重要なポイントです。多くの州法は「敵対国」の国民・企業をターゲットにしていて、主な対象は中国、ロシア、イラン、北朝鮮です。日本人は直接のターゲットではありません。ただし、一部の州では「すべての外国人」を対象とする規制もあるため、個別の州法を確認する必要があります。
規制の主なパターン
各州の法律は大きく分けて以下のパターンに分類されます。
1. 農地(Farmland)の所有制限
最も一般的な規制対象。外国人(特に敵対国の国民・企業)による農地取得を禁止または制限する法律が増えています。
2. 軍事施設周辺の不動産制限
米軍基地や軍事施設から一定距離内の土地取得を外国人に禁止するもの。距離は州によって異なりますが、25〜100マイルが一般的です。
3. 重要インフラ周辺の制限
エネルギー施設、水道施設、通信インフラなどの周辺。鉱物権や森林地も対象に加える州が増えています。
テキサス州は2025年に州として初めて外国人土地所有制限法を制定しました。主なターゲットは中国、ロシア、イラン、北朝鮮の国民・企業ですが、軍事施設の周辺については「すべての外国政府関連主体」が対象になります。日本の政府系ファンドや関連企業が投資する場合は注意が必要です。
日本人投資家への実務的影響
「同盟国」ステータスの恩恵
連邦レベルでは、日本は明確に「同盟国(Ally)」として扱われます。KIPの恩恵を受けられる可能性が高く、大型投資のCFIUS審査も円滑に進むでしょう。
しかし——
連邦と州の規制が別々に動いているなら、連邦で優遇されても州レベルで引っかかることがあるんですか?
まさにそれが最大のリスクです。連邦のCFIUS審査を通過しても、州法で外国人の土地所有が制限されていれば購入できないケースがあります。特に農地や軍事施設周辺は注意が必要です。州によっては「すべての外国人」を対象にする規制があるため、「日本は同盟国だから大丈夫」とは言い切れません。
実践的なアドバイス
じゃあ、日本人は具体的にどこに気をつければいいんですか?
ポイントは3つです。「避けるべき物件」「比較的安全な物件」「投資前にやるべきこと」を整理しますね。
日本人投資家が米国不動産に投資する際の実務的なポイントを整理します。
1. 避けるべき物件タイプ
- 農地(Farmland)——州レベルの規制が最も厳しい
- 軍事施設から25〜100マイル以内の不動産
- 重要インフラ(エネルギー、通信)の周辺
2. 比較的安全な物件タイプ
- 都市部の住宅用不動産(コンドミニアム、アパートメント)
- 商業不動産(オフィス、リテール)——ただし一部州では要確認
- REIT経由の間接投資
3. 投資前に必ずやるべきこと
- 投資先の州の最新の外国人土地所有規制を弁護士に確認
- CFIUS filing(届出)が必要かどうかの事前判断
- 法人で購入する場合の構造設計(LLC設立州の選択を含む)
米国不動産への投資では、CFIUS案件の経験がある弁護士に依頼することが不可欠です。一般的な不動産弁護士では、連邦レベルの外国投資規制と州レベルの土地規制の両方をカバーできないケースがあります。Mintz、Morgan Lewis、Skaddenなどの法律事務所が専門分野として注力しています。
米国CREは「20年に一度の好機」——でも規制を知らないと買えない
前回の記事で解説した通り、米国商業不動産は「満期の壁」による大量のディストレスト物件が市場に出回り始めており、Morgan Stanleyが「20年に一度のヴィンテージ」と評する環境です。
関連記事:米国CRE「満期の壁」|1.5兆ドルの不良債権が生む投資チャンス
しかし、この好機を活かすには規制環境の理解が必須です。
せっかく良い物件が安く出ても、外国人規制で買えないかもしれないということですか?
その可能性はあります。特に地方の物流倉庫や農地に隣接する物件は、州法の規制対象になりやすい。逆に言えば、都市部の住宅やオフィスビルであれば外国人規制の影響は限定的です。規制を正しく理解した上で投資先を選べば、日本人投資家にとって米国は引き続き最も魅力的な市場の一つです。
関連記事:米国不動産投資ガイド|米国の外国人購入ガイド
まとめ
- 2026年2月6日、米財務省がCFIUS「Known Investor Program(KIP)」のRFIを公開。パブコメ締切は3月18日
- KIPは同盟国からの投資審査を迅速化する仕組み——日本は恩恵を受ける立場
- 一方で2025年に38州194法案の外国人土地規制が提出され、15州が新法を成立
- 主なターゲットは中国・ロシア等の「敵対国」だが、一部の州法は「すべての外国人」が対象
- 農地、軍事施設周辺、重要インフラ近くの物件は避けるべき
- 都市部の住宅・商業不動産は外国人規制の影響が比較的限定的
- 投資前に州別の最新規制を弁護士に確認することが不可欠
よくある質問
適格な外国投資家の情報を事前に収集・審査し、実際の投資案件のCFIUS審査を迅速化する「事前登録制度」です。2026年2月6日にRFI(情報提供依頼)が公開され、3月18日までパブリックコメントを受け付けています。
はい、高い可能性があります。日本は米国の主要同盟国であり、KIPの「敵対国」(中国、ロシア、イラン等)には該当しません。ただし、過去3年で3件以上のCFIUS申請実績が必要など、主に大口の機関投資家向けの制度です。
多くの州法は「敵対国」の国民・企業を主なターゲットにしており、日本人は直接の対象ではありません。しかし、一部の州では「すべての外国人」を対象とする規制があるため、投資先の州の法律を個別に確認する必要があります。
農地(Farmland)、軍事施設から25〜100マイル以内の不動産、重要インフラ周辺の土地が主な規制対象です。都市部の住宅やオフィスビルは比較的影響が少ないとされています。
投資先の州の外国人土地所有規制を、CFIUS案件の経験がある弁護士に確認してください。CFIUS filingの要否判断、法人設立州の選択なども専門家の助言が不可欠です。連邦と州で規制が異なるため、両方のレベルでの確認が必要です。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の不動産物件の購入を推奨するものではありません。
海外不動産投資にはリスクが伴います。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。
各国の法規制・税制は変更される可能性があるため、最新情報は現地の専門家にご確認ください。